日月日誌 hitsuki nisshi  

来し方行くさき今の日誌

たましいについて語ることを、恐れるなかれ。

昨日の夜はろくでもないことがあたまをぐるぐるめくるめくめぐり、

寝られそうにもなかった。

 

で。もうあきらめた。

それで、確か文庫版が出るとかで話題に上っていたので

何の気なしに図書館から借りてきていた、

星野道夫『森と氷河と鯨』ワタリガラスの伝説を求めて 

を手に取ったら…

読んだことがあった気がしていたのに、

抜粋されたものしか読んだことがなかったらしい。

初めて通しで読んで、ボロボロに泣いてしまった。

だって…ものすごくいいのだもの!

ほんとうに、心が震えるのだもの!

 

この本は、星野さんが熊に襲われて殺される前までの云わば、遺作だ。

当時、編集を手伝ってしてたひとがこんな風に紹介していた。

 

星野道夫さんの遺作『森と氷河と鯨――ワタリガラスの伝説を求めて』が文春文庫になりました。17回の連載予定を3回残し、カムチャツカ半島でヒグマに襲われて亡くなるまで渾身の写真と文章が、ほとんど「鬼気迫る」域に達しています(読み返すたびに、やはりどこかで死が近いことを悟っていたに違いないと思えるほど、洞察が突き抜けているのです…)。

 

 

この本は、ひとりの、不思議なインディアンの男ーボブ・サムー

との出会いからスタートするという、

ものすごくドキドキするはじまりなのだ。

 

ボブは、多くのインディアンたちと同じく、新しい時代の中で行き場を失い

酒におぼれながらアラスカ中を転々としていた。

そして10年程前にシトカの町に戻り、誰に頼まれたわけでもないのに

ロシア人墓地を掃除し始め、

10年という歳月をかけてモクモクと場所を清めて行ったという。

そこは、クリンギット族の古い神聖な墓地でもあったというのです。

そして、その歳月の中で、ボブは、自分を癒し、

祖先と会話を交わし始めたのだという。

 

そして、なんとそういうボブのことを、

リンギット族の古老たちは遠くから見守っていたのだという。

 

そして、ボブを、新しい世代の「ストーリーテラー」に選んだ。

 

そんなボブを、道夫はクイーンシャーロット島につれていくのです。

 

多くの(トーテム)ポールはすでに傾き、いくつかは地面に横たわっていた。苔むし、新たな植物さえ生えるトーテムポールから、消えようとする模様が何かを語り掛けようとしていた。

……

ボブはその中を歩きながら始終無言だった。私たちは一日その場所で過ごしながら、ほとんど言葉を交わしはしなかった。ボブが何か大きな力に打たれると、それを決して言葉にしないことはもうわかっていた。

 

そして、ボブは妊娠した女性をかたどった木の小さな人形を取り出して、大事そうに道夫に見せた。道夫はそれがなんのことなのかわからなかったが、のち、ボブの前で40歳前後の女性が泣いている場面に居合わせたという。

 

 

その夜、ぼくは何がおきたのかを何気なくボブに聞いた。女性は結婚生活に敗れ、そのことに苦しんでいたのだという。そしてあの人形を胸に当てながら、思い詰めていたものをすべてボブの前で吐き出したらしい。いったいそうれはどういうことなのだ。初めて出会った人間になぜそんな心の内を語ることができるのだろうか。ぼくはそのことを問い詰めることができなかった。なぜか聞いてはいけない気がしたのである。が、ふとボブにはヒーラー(信仰的な治癒能力)の力があるのではないかと思った。その出来事はボブに対する不思議な想いを僕の中にのこしていった。

 

ボブは、あちらがわとこちらがわを行き来する。

言葉にならない体験をすると、沈黙する。

そして、墓地を掃除していた10年間は、実は

ゴーストに悩まされ続けていたのだという。それを

奥さんから道夫は聞かされた。

 

いつかボブがいったことを思い出した。「あの墓地のことは自分の世界のように何でも知っている。やってくる鳥も、生えている植物も、蜘蛛も、ゴーストでさえも」

ボブは、現実の世界では見えにくい、不可解な世界の扉を少しずつぼくに開いていった。それは’ビジョン’と呼ばれる体験、すなわち霊的世界の存在だった。…

偶然の一致に意味を見出すか、それとも一笑に付すか、それ人間存在の持つ大切な何かに関わっていた。その大切ななにかが、たましいというものだった。

 

この本の最初には、ボブが亡くなった道夫のために文字に起こした、クリンギットインディアンの古老の口承のものがたりが付されてある。

それは、こうはじまる。

 

-How Spirit Came To All Things

This is what we get togther to talk about.

Don't be afraid to talk about the Spirit.

I'm gonna  go back a little bit, how we got the Spirit.

 ・・・

ーどのようにしてすべてのものにたましいが宿ったか

いまから話すことは、わたしたちにとってとても大切な物語だ。

たましいについて、話すことを決してためらってはいけない。

ずっと昔の話だ。…どうやってわたしたちがたましいを得たのか…

 

道夫は自分のたましいのルーツをたどっていたような気がすごくする。

古い文献を調べてゆく中で、ぼくの中でいつも引っかかっている学説があった。それも100年前近くに書かれたリヴァーンド・ジョーンズという人物の推察である。

「私は、太平洋諸島やアラスカの人々のオリジンが、アジアからカムチャッカの海岸線を旅してたどり着いたのだと考えている。それも主として日本から…」

 

そう、きっとインディアンは、日本から渡ったのじゃないかな…

それを、自分の中で明確に、したかったんじゃないのかな、、、

 

でも。

星野道夫はどうしてこんなたいせつな仕事の途中で

死んでなないといけなかったんだろう?

もし、星野道夫が生きていたら、、、、と思う。

きっと次々と

ものすごく大事なことが話されるはずだったのに。

聞かれ、書かれ、映されていくはずだったのに。

 もしかしたら、少し、「早すぎた」のだろうか。

そんなふうに、思った。

 

そして、言葉もだけど、

本の中におさめられている写真のすごみにあらためて圧倒されました。